【ご来園のみなさまへ】と書かれた案内の看板が、派手な音をたてて転がっていく。

 風がやんで、園内は何事もなかったように、静けさを取りもどした。

 あわてて咲也くんの腕をつかむわたし。

「だ、だいじょうぶ、咲也くん!?」
「ああ、おれは平気だよ。一千花センパイはケガしてないよね?」
「うん……」

 咲也くんの左目は、元に戻ってる。

 あの看板は、魔物がわたしをねらって、風で飛ばしてきたの?

 ゴンドラをゆらしたのも、同じ魔物のしわざ?

 こわいけど……元・魔法少女としては、おびえてばかりもいられないよ。

 係員の人に、看板が風で飛ばされてきたことを説明し、しっかり固定したほうがいいと伝えた。

 そして、わたしたちは重くなった足どりで、ネモフィラが咲きほこっているエリアにたどりついた。

 丘一面が、空色に染めあげられている。

「きれい……」

 わたしが感嘆の声をあげても、咲也くんは考えこんだままだ。

「咲也くん、どうしたの……? もう、魔物の気配は消えたんでしょ?」

 心配になって話しかけると、咲也くんは意を決したように、わたしを見つめた。

「一千花センパイ……」
「…………」

 わたしたちは、向かいあった。

「おれ、ぜったいに一千花センパイを守るから。罪滅ぼしとか、そういうのじゃなくて、おれにとって、一番大切な人だから守るんだ。だから……その……」

 言いよどんで、じれったそうに、頭をくしゃっとする咲也くん。

 自分の想いをうまく言葉にできない――そんな感じに見えた。

「だいじょうぶだよ、咲也くん」

 力をこめて語りかけるわたしに、迷いとか、不安はない。