咲也くん、そんなことを……。

 胸のなかに、ひんやりしたスキマ風が吹きこむような感覚――。

 そんなさびしいことを言わないで、咲也くん!

「だからさ、だれかに祝ってもらおうなんて、これっぽっちも思わないワケ」
「咲也くん……」
「ただ……大切な人といっしょにいたいと思った。今日が忌まわしい日であることを忘れるために」

 ほほ笑んだ咲也くんの瞳に、わたしがうつってる。

「一千花センパイしかいなかった。今日という日をいっしょに過ごすのは……。だから、強引に誘っちゃった。ごめんね」

 ぺろっと舌を出す咲也くん。

 そんなふうに、わたしを心の底から求めてくれていたんだ!

「……わたしでよかったの?」

 咲也くんの左手が伸びてきて、わたしの頬をやさしくなでた。

「一千花センパイじゃなきゃダメだ。今日は、おれだけを見ていてよ」
「うん」

 咲也くんの瞳にうつってるわたし、笑顔になってるよ。

「あっ、見て見て。一番高いところまで上がったんじゃない?」

 窓に視線をうつして、はしゃぐ咲也くん。

 きっと咲也くん、いま、スッゴく照れてるよね。

 そんな気がする。

 クスッとして、わたしも窓からの景色を見つめた。

「わあっ!」

 視界がひらけて、開花町全体を一望できるよ!