「五十嵐?」


ベッドの横の丸イスに座って窓のほうを見ていた海斗が聞く。


「私の元執事」


そう言われて初めてあの男の名字を知った。


五十嵐という名前だったのか。


「亮子のこと、本当に反省してるって」


「そっか」


「それで、許してもらえるのならもう1度執事としてやり直したいって」


「懲りないやつだなぁ」


海斗は声を上げて笑う。


そのくらい、梓のことが好きなのだろう。


だけど、好きな気持ちでは自分も負けていなかった。


海斗は窓の向こうに上がり始めた花火を見つめて、梓の手を握りしめる。


細くなってしまった指先に少しだけ胸が傷んだけれど、気が付かないふりをした。


今だけは。


この瞬間だけは世界一幸せな2人でいたい。


「キレイ」


梓がうっとりとした表情で呟く。


「あぁ」