えっ!この声って『YUK I』じゃない⁉︎
小春は悲しくて終わった映画の余韻を残しながら、エンディングを聴いていると、あれっと思う。

修哉の方を見る。目が合うと。微妙に目を逸らし、「忘れてた。」と呟いた。

「えっ!!こんなすごい映画に携わってたのに忘れちゃってたんですか⁉︎」
信じられない。
最後に気づいたって事?

凄い事なのに忘れてたって…涙も引っ込みポカンとしてしばらく結城を見つめてしまった。

「…いや。最近、主題歌にって話が良くあったから、この為に書き下ろした曲じゃないし。」
言い訳しながらちょっと気まずそうだ。

先輩ってどれだけ凄いの。
忘れちゃうくらいこう言う話があるって事だよね。

私と映画なんて観てて大丈夫なのかなぁ。

顔バレしてないから、コソコソしなくていいのにちょっとドギマギして、
「早く出ましょうか。」
と誘う。

「大丈夫だよ。誰も分からないから、1番最後に出よう。」
と立ち上がりかけた私を引っ張り座らせ、 
私が握ってた先輩のハンカチを「貸して」と取って、優しく涙の跡を拭いてくれた。

映画が終わって、軽くランチを食べた後、ショッピングモールを見て歩く。

先輩がふと雑貨屋さんで足を止める。
「食器が足りないよな」

確かに、ほぼ1人分しかない食器で今までなんとかチグハグな感じでやりくりしていた。

お揃いとかあったら嬉しいけど、この生活がずっと続くとは思ってなかったし、買い揃える事はしなかった。

何気なく気になったデザインのお茶碗を手に取る。桜の花びらがモチーフで男女色違いになってて可愛いなぁ。

でもちょっと高いなぁ。小皿や大皿も同じデザインで揃っていていいんだけど、と思い元の棚に戻す。

「それにする?種類もいろいろあるし、使い勝手も良さそうだ。」
そう言って先輩はどんどんカゴに入れていく。

「せ、あっ。修哉さん。高いですからそんなに無理です。」慌てて止めに入る。

「小春に払わせる訳ないだろ。俺の分として買うんだから気にするな。」
それだけ言って、スタスタ会計に行ってしまった。

「ありがとうございます。」
ペコリと頭を下げて言う。

「私いつも払ってもらってるばかりで何も返せてません。
修哉さん何か欲しいものとかありませんか?私でも買えるものならプレゼントさせて下さい」

「小春はいつも飯作ったり洗濯したりしてくて、いろいろやってくれてるから。それでいいんだ」

「それに1番欲しい物はちゃんと手に入ったから」
首を傾げて先輩を見上げる。

「小春が側に居てくれれば他には何も要らない。」
サラッと言って先輩はまた手を繋いで歩き出す。
なんでこの人は恥ずかしい事サラッと言えちゃうかなぁ。

顔がポッと火照るのを自覚して俯きながらついて行くのが精一杯だった。