しばらく仕事に没頭していたら
「すいません。お任せしました。」
小さな声で、遠慮しながら小春が駆け寄ってきた。

「お疲れ様」と微笑み、PCをカバンにしまう。

「すいません。長く待ってもらっちゃって、大丈夫でしたか?」

「俺が勝手に早く来たんだよ。働いてる小春を見たくて、気にするな。」
軽く言って、ベンチから立ち上がる。

「…なんか、知らないやつに差し入れもらったし。何これ?甘すぎなんだけど。

あついに言っといて、
俺は、コーヒーはブラックしか飲まないって」

一瞬、目を大きく見開き、ふふふっと小さく笑った。
「良かった。先輩、きっと迷惑してるんじゃないかと思って、心配だったんです。」

「いや。てっきり俺にマウントとってくるのかと思ったんだけど、
差し入れされて、逆に興をそがれたと言うか、拍子抜けした」

淡々と話す姿を見て、大人になったんだなぁと密かに思う。

「なに?俺が食ってかかるとでも思った?」
小春の考えてる事なんてお見通しだとでも言うように、修哉は言う。

「いえ。昔の先輩だったらボコボコにされかねないなぁって思ったから。」
ふふふっと笑い、素直に心の内を打ち明ける。

「そんなガキじゃあるまいし。

…もしかして、あの頃はそういう奴だって思ってた?」

はぁーっ。と軽くため息をついて、
「そんな、誰かれ構わずケンカするとか有り得ないだろ。
そんな奴だと思われてたのか、心外だな」
苦笑いして、どっち?っと指差し足を進める。
「小春は電車?それとも歩いて帰るの?」
首を傾げながら小さく聞く。

「ここ、私の最寄りの駅なんです。歩いて15分くらいの所に住んでます」

「じゃあ。歩いて送ってく。行こう」

歩き出すのを躊躇する。
「えっと、先輩はここまで電車で?
きっと遠くなっちゃうから…
ここら辺のお店に入ってお話ししますか?」
気を遣ってそう話しかけると、

はぁーとため息を吐いて
「何の為に来たと思ってるの?
危ないから送ってく為に来たんだよ。
車だけど、小春の帰る道、知りたいから歩いて送ってくよ」

これ以上抵抗しても無駄だと諦め、こっちです。と指を差して誘導する。