君だけに捧ぐアンコール

 拍手喝采を浴びる彼を客席から見守る。
結果としてコンサートは大成功だ。彼らしい煌びやかな音色はもちろん、哀愁漂う曲も超絶技巧の曲も、完璧に弾きこなした。
やっぱり私はKEIのファンだ!

 鳴り止まない拍手の中で、KEIが舞台上へと戻ってきた。

「アンコールとして、この曲を最愛の人に贈ります。」

そうして弾き始めたこの曲は、パッヘルベルのカノン…!



「花音!」

「こんなに泣かして!お化粧崩れたじゃないですかっ!お、おしゃれしてきたのに!」

 彼の楽屋に呼ばれたので行くと、顔を見るなりぎゅーっと抱き締められた。

「ダメだった?」

「素敵だった!いままでで一番!」

 そう伝えると、嬉しそうに微笑む。
あ、可愛い。愛おしい気持ちが心の中に満タンになっていく。

「あのさ。」

「結婚、してください!」

「ちょ、今おれが言おうとした」

「我が家の伝統なんで。すみません」

「伝統ってなにそれ」

 真知子ちゃん直伝の逆プロポーズ。加賀宮さんは不服のようだ。隆文さんの為にこの伝統は黙っといてあげよう。

「内緒です!それで?答えは?」

「俺が言うからお前が答えろ」

「えー!?何それー」

 抱き締める手を緩めた彼が、真剣な顔つきになる。私の目元に残る涙を拭い、髪を撫で、そして──

「…結婚するぞ」

「ふふっ。はい!」

 私たちの協奏曲は、これからも続いていく。あなたのピアノが聴けたなら、私はきっと、ずっと、幸せ。

fin