「お前さ、最近……」

「何?」

 言いかけて、止める。

こんなコト、話したとして、信じてもらえるか? 

俺が舞香を信じたように……。

「……。いや、何でもない」

 やっぱり言えない。

言えないよ。

山本の為にも、舞香の為にも。

ハクと荒木さんの為にも……。

 そう思っているのに、山本はやっぱり俺に対して遠慮がない。

昼休み、昼食を食べ終わった山本は、俺の前にドカリと腰を下ろす。

「別に荒木さんが本当の理由じゃないだろ?」

「……。まぁね」

「そんな簡単に人のせいにしちゃダメだよ。あの人の為にも。自分の為にも」

「うん」

 すっかり外の風は、夏の気配を忘れてしまっている。

教室の窓から吹きこんだそれは、俺の前髪を揺らした。

山本は紙パックのバナナジュースをズズッと吸いこむ。

「ケンカの原因はあえて聞かないけど、舞香ちゃんと圭吾自身の気持ちが、上手くかみあえばいいね」

 そんなことは分かってる。

それをどうしていいのか分からないから困っているんだ。

窓の外を見る。

俺はどうすればいい? 

ガラリと教室の扉が開いて、舞香が顔を出した。

「圭吾!」

 そのまま駆け寄り、俺の背中に抱きついてくる。

これはハクだ。

「ね、写真今日も撮る? まだ撮れてないでしょ?」

「もういい」

「どうして?」

 後ろから回された腕を、ゆっくりと払う。

「何枚かストックがあるから、その中から選ぶ」

 彼女はキョトンとした顔をした。

「もういいのか?」

「もういい」

 じっと見下ろすその仕草は、少し粗暴で幼くて、あの小さな女の子そのままだ。

「じゃあ、どうすればいいんだ?」

 どうすればって……。

ん? 待てよ……。

「あ、やっぱ撮影しよ」

 俺はとっさに、彼女の腕をつかんだ。

「や、やっぱり……。俺には舞香が必要だった……」

 そう言うと、彼女はうれしそうにニッとなる。

「だろ? じゃ、後でな」

 俺との撮影が不要になったということは、彼女は演劇部に戻るということで、そこには荒木さんがいて、ハクと接触させるのは……。

彼女はご機嫌で手を振ると、すぐに教室を出て行く。

「本当に荒木さんがらみなんだな」

 山本は俺を見た。

「あきらめろ」

「分かってるよ!」

 くそ。

本当に面倒くさい。

なにがどうしてこうなった? 

舞香に乗り移ったハクは、すっかり人間としての生活を満喫している。

高らかな声で笑い、廊下に駆け出しては会いに来る。

一目を気にせず大声で俺の名を呼び、遠くからでも手を振った。

自販機のジュースを要求し、何でもよく食べる。

「お前、小さい女の子の時はあんまり動かなかったのに、なんでそうなった?」

 放課後になった。

池近くのベンチに、ようやく座らせる。

ハクは舞香の姿のまま、お気に入りのマンゴージュースを、勢いよく吸い込んでいた。