「ハクちゃん!」

 龍の姿に戻ったハクの首根っこを、ガシッとつまんだ荒木さんは、そのままグイと舞香に押しつけた。

今度は舞香が、チビ龍のハクを抱きしめる。

荒木さんはあっさりと二人に背を向けた。

「じゃ、お疲れ。ゆっくり休めよ」

「ちょ、待ってよ!」 

 希先輩は、すぐに荒木さんの背中を追いかける。

振り返ることもなく行ってしまった彼の腕に、自分の腕を絡めた。

「ねぇ、話しがあるんだけど……」

 希先輩は荒木さんの腕に絡みついたまま、気遣いも見せない彼を見上げる。

希先輩の横顔は沈む最後の夕陽に照らされ、浮きあがっていた。

あっという間に俺たちは、この場にとり残されてしまう。

街路樹と交互に並んだ外灯に、明かりが灯った。

「荒木さん、龍のハクには興味ないんだ」

「うん。人間に化けてないと、見向きもしない」

「同じものなのにな」

 舞香の腕の中の、ハクを見つめる。

彼女は何も言わなかった。

「か、帰ろっか。もう遅いし」

 俺には半透明に透けて見えるハクが、舞香の腕からふわりと飛び上がった。

「私は少し、様子を見てくる」

「……。ハクはやっぱり、荒木さんと希先輩が気になる?」

「宝玉が眠っているのかもしれないのだろう? もう少し、この公園付近を回ってくる」

 舞香の質問には答えず、ハクは一匹で出かけてしまった。

俺と舞香は、すっかり日の落ちた公会堂を後にする。

彼女と肩を並べて歩いた。

いつもの通学路とは違う道のりが、歩く二人の距離を縮めているような気がした。

「荒木さんね、妹さんのこと、すごく好きだったみたい」

 彼女はポツリと、そうつぶやいた。

「歳が離れてて……。ほら、荒木さん、自分以外に興味ない人だから。妹さんのことも、そんなに相手にはしてなかったみたいなんだけど……。病気が分かって、入院して、そのまま退院することもなく、あっという間に亡くなったんだって。荒木さんが小学生の時の話しらしいから、もう何年も経つんだけど……」

 それは、あのヒトの天上での過去と繋がっているのか、それとも現世で受ける罪の一部なのか……。