学校での最後の練習公演も無事に終わって、舞台に設置された大道具や背景などの搬送が始まる。

演劇部員たちに混じって、俺もそれを手伝った。

トラックを見送ったところで、ようやく解散となる。

荒木さんもいないから、ミーティングも早い。

すっかり日の落ちた坂道を下ってゆく。

彼女と並んで歩くのも久しぶりだ。

「いよいよ、明日だね」

「うん。なんか緊張する」

「俺も」

 夜風がすぐ真横にある前髪を揺らす。

俺だって緊張している。

違うだろ。

本当に話したいことは、コレじゃない。

「もう準備は万全?」

「何度もチェックしたから、多分大丈夫」

「はは、こういうのって、いくらチェックしてても、絶対に当日忘れ物に気づくってやつだよね」

「ちょ、そんなこと言わないでよ」

 いつまでも、避けるワケにはいかない。

大きく息を吸い込んで、そのまま吐き出す。

「荒木さんと……、ハクに会った」

「ハクと?」

「ハクが人間の女の子になってて……。荒木さんと手をつないで、どっか行ってた」

「はは。荒木さん優しいな」

 そう言って笑った彼女の横顔に、外灯の明かりがさす。

「やっぱり気になるんだ」

「だれが?」

「荒木さん」

「なにそれ。うちの部長、確かにモテるけど、それは本性を知らない部外者だからだと思うよ」

「そうなの?」

「中身知ったら、そんなの吹き飛ぶから」

「……。どんなふうに?」

「そのうち分かるよ」

 上目遣いでにらみつける彼女に、思わず吹き出す。

笑い始めたら止まらなくて、気づけば彼女も一緒に笑っていた。

「怖いんだ」

「もうね、威圧的なの。異次元レベルで。自分超大好きで、他には全く興味ナシってかんじ」

「なんか分かる」

「だけど、目立つのは嫌いなんだよね。それが不思議。今回も主役じゃないし、演者でもないんだよ。監督なのにインタビュー記事とかまで、全部違う人に任せちゃってるし」

 体育館の時とは違う暗がりの中で、やっぱり彼女の横顔は真っ直ぐに前を向いていた。

「だけど、好きなんだ」

「しつこい」

 彼女のグーパンチが俺の腕に触れた。

もうちょっと強く叩いてくれないと、リアクションもしずらいんだけど……。