「それは……。公会堂の搬入手続き」

「そっか……。そりゃ大事だよね……」

 やっぱり俺は、ここには入れない。

さっさと視界から消えようと、立ち上がり背を向けた。

「ねぇ、よかったら見て行って」

 体育館の中央では、俺ではない別の誰かがカメラの調整をしていて、舞台下でも、演劇部員が撮影をしているようだった。

もう俺の居場所は、ここにはない。

希先輩や山本にはそこにいる理由があっても、俺にはない。

「えっと、三脚を外に置きっぱなしにしてて……。なくしたり壊れたりすると問題になるから……」

「そっか。じゃあしょうがないね」

 彼女の手が暗幕にかかる。

上演が再会されれば、本当にもう、俺はここには入れない。

「また必要なときに、連絡するね」

「ちょ……待って! すぐ取ってくるから! 急いで戻ってくる!」

「えぇ? ……あぁ、うん。じゃあ、待ってるね」

 彼女の返事に、猛然と走り始めた。

こんなにも必死で走るのは、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。

ポツリと芝生の上に立っていた三脚は、さっきまでの俺みたいだ。

それをつかみ取ると、再び体育館に駆け戻る。

俺を迎え入れたところで、暗幕は閉じられた。

舞台が再開される。

何度も台本で読んだ、知り尽くした内容だ。

薄暗く冷たい床の上で、彼女は微笑む。

「よかった。来てくれて」

「他の写真部の連中も、来てたんだ」

「うん。いいよって言ったんだけど、なんだかんだで、集まってくれて……」

 彼女の顔がうつむく。

「嫌われてるのかと思ってた」

 あぁ、そうだ。そうだった。

来なくてもいいって言われたからって、それを真に受けてちゃいけないんだった。

そんなこと、すっかり忘れてた……。

 いまどんな顔をしているのか、自分でも説明出来ない。

この場所が暗くて、本当によかった。

山本やみゆきがいたら笑われそうで、希先輩がみたら呆れられそうで、荒木さんなら……、変わらず、無視するかもな。

じっと前を向いたまま動かなくていいことに、心から救われる。

隣に座っていた彼女が、わずかに体を傾けた。

前を向いたままの、そのままで動かない横顔をこっそりとのぞき込む。

「!」

 ね、寝てる? 

回りが暗いから、はっきりとは見ることが出来なくて、なんで今が今のこの状況なんだろうと思う。

なんだよ。

こんな動けないタイミングで、なんでこんなんなんだよ。

よくも見れないし、反応のしようがないじゃないか。

もうちょっと考えてほしいよね、そういうとこ。……。

疲れたんだよね。

動画編集の練習、頑張ったんだ。

磁石に吸い寄せられるように、それは絶対的な不可抗力で、俺も彼女の方へ体を傾けた。