「だからさ、君たち不用心すぎない?」

「何しに来た」

「いや、撮影ですけど」

 ハクに向かってレンズを絞る。

「えー。どうせなら、私も一緒に写してよ」

 彼女は体をグッと前に屈めた。

そのレンズに向かって、流行のサインを手で形作る。

ハクが呆れてそれを振り返った瞬間、シャッターを切った。

「撮れた?」

 カメラの画面に、彼女が顔を寄せる。

その近さにちょっとびっくりする。

「あー、やっぱり無理なんだー。残念」

 保存された画像データには、自然な笑顔の彼女しか写っていない。

じゃあやっぱり、あの白銀の龍にレンズを向けても、無駄だったんだな。

「あの場所で何があった」

「あの場所って?」

 ここからは近くにあの池が見えた。

俺が一番最初に、女の子に化けたハクを見た池だ。

「私が飛び込んだ時……、あの教室でだ……」

「何もないよ。急に入ってきて、こっちがびっくりした」

 そうか。

荒木さん自身とはこの話しが出来なくても、ハクとは出来るんだ。

まぁ舞香もいるし、あんま深入りする気もないけど……。

「ハクはずっと気にしてるの。すっごく悔しがってて」

「……協力しろとは言わない。だが邪魔をするな」

「邪魔はしてない」

 多分だけど。

この小っこい頼りない龍も、いつかはあんなに大きくなるのかな。

「宝玉を見つけたらどうするの」

「……。天に帰る」

「なかったら帰れないわけ?」

「なかったら……。帰らない」

 舞香の手が、ハクに向かって伸びた。

その指先で龍の首元をなでる。

「ハクにとっては大事な宝物だから、なくしたままではイヤなんだって。見つけたらどうしてもしたいことがあって、それは宝玉さえ見つかれば、すぐなんだって」

「したいことって?」

「……。それは見つけてからの話しだ」

 ハクは宝玉を見つけて、あの龍と会いたい。

だけど、その龍が化けている荒木さん自身は、ハクに会いたくないし早く帰ってほしい。

宝玉は……見つけない方がいいのかな?

「見つけたら、すぐに帰るんだって。そうなんでしょ」

「あぁ、すぐに帰るさ」

 ハクは真っ白な体を少し動かして、とぐろをまき直す。

これ以上話す気はないらしい。

俺にしたって、どうしていいのか分からないし、深入りも関わる気もないから、距離を取ろうと思う。