「ダメじゃん、もっと引っぱらないと」

 山本の乾いた笑いに、もはや腹すらも立たない。

「で、好きなの?」

「お前も遠慮ないよな」

「別に? 聞きたいこと、聞いてるだけだけど。お前も言いたいことがあるんなら、ちゃんと言っといた方がいいぞ」

 なんだそれ。

俺は山本の顔をじっと見つめる。

言いたいことなんて、そんなものあるわけない。

言いたいからって言っていいだなんて、そんな単純なわけがない。

背後でふわりと空気が動いた。

なんだか違う空間から漂ってきたような気配がする。

荒木さんの大きな体が、隣に腰を下ろした。

「俺も混ぜてもらっていいかな。圭吾。舞香と何があった」

「何もないっすよ!」

 ムカつくほど整った顔を、俺はジッとにらむ。

「舞香が明らかにお前を避けている。妙なマネをしたら、俺が許さないと言っただろう」

「言いました? そんなこと」

 山本が隣でため息をついた。

「だから犯罪は犯すなってあれほど……」

「何もしてません!」

 体育館の二階席は天上が近くて、むき出しの鉄骨がそのまんま見えている。

明かりの届きにくいこの場所は、いつだって薄暗かった。

荒木さんと山本は、また同時にため息をつく。

コイツらは言いたいことを言いすぎだ。

俺にはそんなことは出来ない。

出て行こうとして立ち上がったら、すぐに荒木さんの手が肩を押さえつけた。

「まぁ座れ。なんだか知らんが、舞香はいま落ち込んでいる」

「は?」

「行って慰めてやれ」

「なんで落ち込んでるんですか?」

「知らん。ただいつもより元気がない」

「荒木さんが元気づけたらいいじゃないですか。部長なんだし」

「なぜ俺がそんなことを?」

「なんでって……」

 彼女の横には必ず荒木さんがいて、舞香は俺には興味なくて、俺なんかが行くよりもずっと、こういう立場とか人望のある人に聞いてもらう方が、嬉しいし楽しいだろうし、たとえ間違ったとしても上手くいく……。

「悪いが俺は、お前のような興味は舞香にない。あぁ、恋愛対象としてってことな」

 どこまで真剣に話しているのか、よく分からないような顔を向ける。

だったら誰が恋愛対象なのかと、俺はその言葉を飲み込む。

「えーじゃあ誰か他に、気になる人いるんですか? 実際モテるでしょ。あ、彼女いるとか?」

「ばっ、お前、そういうことを平気で聞くなよ!」

山本は荒木さんに対しても遠慮がない。