仕方なく立ち上がる。

あんまり気が進まないけど、雨に打たれる池の水紋でも撮りに行こうかな。

ぬかるみの中に一歩を踏み出す。

ふと荒木さんの姿を見つけて、立ち止まった。

 彼は渡り廊下の端から、じっとその脇にある植え込みを見下ろしていた。

ふいに背を丸めると、その角にしゃがみ込む。

植え込みの中に手を突っ込むと、何かを捕まえた。

チビ龍だ。

首根っこを掴まれ、バタバタとのたうち回っている。

「ちょ……」

 声をかけようかと思って、思いとどまる。

彼はぴちぴちくねくね暴れるそれを、ただじっと眺めている。

チビ龍と目を合わせた。

何かを話しかけるかと思った次の瞬間、彼はポイとソレを投げ捨てる。

半透明のチビ龍は、慌てふためいて姿を消した。

荒木さんはその様子黙って見届けた後で、何事もなかったかのように体育館へと向かう。

その姿は完全に見えなくなった。

「おい、チビ!」

 何もない空間に向かって、俺はこっそりささやく。

「聞こえてるだろ、出てこいよ!」

 ここは校舎と体育館をつなぐ空白地帯だ。

雨も降り人気もないのに、アイツなにやってんだ。

「見つかってんじゃねーよ、バカか」

「バカとはなんだ、こっちは死ぬほど驚いたんだぞ!」

 半透明のチビ龍が姿を現した。

俺は周囲から見つからないよう、その上に傘をかぶせる。

「なんで見つかってんだよ」

「寝ていた。うっかりした」

「そんなんじゃ、あっという間に全校生徒にバレるだろ!」

「大丈夫だ。元々バレている」

「誰に!」

「龍の存在など、みな知っているではないか」

「あぁ……」

 なんだか本当にそうなるのも、時間の問題のような気がしてきた。

「違う。違うんだよ、チビ。そういうことじゃないんだ」

「何がだ」

 どう説明していいのか分からないから、とりあえずスルーしよう。

「舞香は?」

「部活」

「あぁ、そう……。あぁ……。ならまぁ、いっか」

 彼女も必死で探しているワケではないのか。

そうか、そうだった。

大体1,200年も前になくしたものを探そうって奴だ。

人間時間の今日明日で、何とかしろってことでもないんだろう。

本当に全てがバカバカしくなってきた。

「一緒にいなくていいの?」

「居たいと思えばいるし、必要があれば、行けたら行く」

「そんなもんなんだ」

「お前は違うのか?」

 そんなことを聞かれても、何と比較してのことだか分からない。

そういう場合もあれば、そうじゃないこともあるんじゃないのかな。