「お? なんだアレ!」

「知らなかったの?」

 舞香はため息をつく。

「もうそれなりに前だと思うよ」

「いつ!」

 彼女は俺をにらみつけた。

「本人たちに直接聞けば? 知らなかったのは、圭吾だけだって。そっちの方がびっくりだよ」

 彼女はベンチから立ち上がると、とことこと歩きだした。

校舎脇に設置されたゴミ箱に飲み終わった紙パックを捨てると、また戻ってきて俺の隣に座る。

「で、圭吾は私とハクの、どっちが好きだったの?」

「だ、だからそれは……。もちろん舞香だって……」

 あれから何度も聞かれている。

毎回同じように答えているのに、どうしたって彼女には納得してもらえない。

「じゃあ、いつのころからそう思ってたワケ?」

「ん? あぁ、それは……。だけどさー。ハクの最後のセリフ、覚えてる?」

「へ? そんなの、もちろん覚えてるよ。絶対に忘れないでしょ」

 うん……。それはそうなんだけどさぁ……。

「舞香と荒木さんの名前は出たのに、俺の名前はなかった……」

「ウソ! そんなことないって」

「薄情すぎない?」

「大丈夫、大丈夫! ハクは覚えてるよ」

「ついでで?」

「ついでで」

 舞香と目を合わせる。

次の瞬間、彼女は大爆笑した。

「あはは、ずっとそれを気にしてたの?」

「もういいよ……」

 ハクが舞香に取り憑いた理由が、何だか最近分かってきた気がする。

舞香は中身まで、ハクとそっくりだ。

「ね、今日はフォトコンを見に行く約束でしょ。早く行こ」

「うん」

 学校をあとにする。

結局俺が選んだのは、舞香とハクを並んで撮した画像だ。

そこには舞香だけしか写っていないけれど、俺と彼女だけは、そこにハクがいたことを知っている。

「特選に入るといいね」

「うん、それはきっと無理……」

 俺たちは歩きだすと、そっと手をつないだ。




【完】