この祠も、いずれは朽ち果ててしまうのだろうか。

そのご神体としての宝玉を失ったいま、この祠の残された意味はなんだろう。

誰にも知られずひっそりと、深い森の中でたたずむそれは、なにを思うのだろう。

 森から抜け出すと、荒木さんは通学路に飛び降りた。

すぐ後に続いていた舞香に手を差し伸べ、降りるのを手伝おうとしているのに、彼女はためらっている。

俺はそんな舞香より先に飛び降りると、彼女を見上げた。

「帽子はどうするの?」

 ハクの帽子を、舞香は自分の頭に乗せた。

俺と荒木さんから伸ばされた二本の手に、彼女は掴まる。

せーので無事に着地した彼女は、まるでハクみたいだった。

 山門をくぐると、池の周辺には十数人の生徒が群がっていて、その中には先生の姿もあった。

すぐに消えてしまった巨大な光の柱に、様々な憶測が飛んでいる。

「圭吾!」

 山本とみゆきが飛び出してきた。

「お前、どこにいたんだよ!」

「えぇっと……」

 後ろを振り返る。

荒木さんは体についた枯れ葉のくずを払っていて、舞香は泣きあとの残る顔を見られまいと、ハクの帽子でそれを隠していた。

「……あれ、もしかしてお前らか?」

「あ、あぁ……。うん。まぁ見たけど……」

 言葉に詰まる。

なんと答えていいのか、分からない。

山本の目が、真っ直ぐに俺を見つめた。

「なんかさ、俺には光りの中に龍みたいなのが……」

 ふいに、彼はその次の言葉を飲み込んだ。

「いや、何でもない! お前らが無事だったら、俺はそれだけでいいんだよ!」

 山本は笑っている。

みゆきは首にかけていたカメラを外すと、それを俺に押しつけた。

「フラッシュ! カメラのフラッシュが壊れたのよ! ね? そうでしょう?」

 みゆきの顔がグッと鼻先まで近寄る。

「それで騒ぎになっちゃったけど、もう撮影終わったし調子も戻ったって、そういうことよね」

 彼女からの『そういうことにしておけ』圧が凄い。

「そ、そうだよ……。だけどもう、直ったから大丈夫」

「はは……」

「ははは」

「あはははは……」

 群衆の中から、希先輩が姿を見せた。

荒木さんの姿を見つけると、そのまま飛びつく。

しがみつくようにその胸にすがる希先輩に、彼はため息をついた。

彼女のその肩を抱き寄せると、耳元でささやく。

希先輩はようやく顔をあげ、小さくうなずいた。

「俺たちも帰ろう」

 そんな風景にも、俺の胸はもう痛まない。

舞香を振り返る。

彼女は隅っこで小さくなったままだった。

ハクの残した帽子のつばを、ぎゅっと握りしめたまま、動けずにいる。

まだ震えている彼女の手に、俺は自分の手を添えた。