狂った隣人たち

「隣の家の玄関の鍵を壊して入り込んだんだ! 立派な犯罪だよ!」


必死に訴える祐次をよそに弘人は笑ったままだ。


その上鼻歌まで聞こえてきたと思ったら、それは母親から発せられているものだとわかって祐次は目を丸くした。


「あらそうなのね。じゃ、お母さんは夕飯の支度をしなくちゃ」


鼻歌交じりにそう言い、いつもどおりエプロンをつけて台所へ立つ。


「お母さん、俺の話を聞いてた!?」


「聞いてたわよ? でもまずはご飯の準備をしなきゃね」


トントントンと小気味いい音が聞こえてきて祐次はその場に立ち尽くしてしまった。


弘人のしたことよりも夕飯の準備が大事だって?


「なぁ、本当のことなんだよ、真面目に聞いて!」


信じてもらえなかったのだと感じた祐次は更に食い下がる。


とにかく話を聞いてもらわないことには解決しない。


母親の料理を止めさせようと近づいたとき、父親が祐次の体を押しのけてキッチンへ近づいた。


料理をしている母親の横から一本の包丁を握り締めると大またで廊下へと出て行ってしまう。


「ちょっと、お父さん!?」


廊下とキッチンへ交互に視線を向ける。


母親は父親が包丁を掴んで出て行ったことなんて見えていないのか、料理を続けている。


弘人は相変わらずソファに座り込んで笑っている。


「くそっ」


祐次は舌打ちをして、父親の後を追いかけたのだった。