狂った隣人たち

くるみは大神家の玄関先へと視線を向けた。


そこには誰の姿もなく、いつもどおりの玄関があるばかりだ。


だけど、今までの隣人のことを思い出すと一概に勘違いだと言い切ることはできなかった。


本当に誰かが立っていたのかもしれない。


そう考えた瞬間胸の奥に気持ち悪さを感じてくるみは祐次の手を強くにぎり締めた。


祐次も握り返してくれたけれど、それは玄関先に到着するとすぐに離されてしまった。


名残惜しさを感じて自分の手を見下ろす。


「弘人がひとりでいるはずだから、早く帰ってやらないと」


「うん、そうだよね」


くるみはうなづく。


弘人のことは祐次の中で今一番気がかりなはずだ。


そんなときに自分のことで時間や思考を取らせるわけにはいかない。


祐次が玄関を入っていくのを見送り、くるみは自分の家へと足を進めた。


鍵を取り出して玄関を開けようとしたとき、すでに鍵が開いていることに気がついた。


聡子が先に帰ってきているみたいだ。


仕事をしている聡子がくるみより先に戻ってくることは珍しい。


「くるみ!」


玄関を開けようとしたとき後ろから声をかけられて振り向くと、血相を変えた祐次が駆け寄ってきた。


「どうしたの?」


「弘人がいないんだ。リビングはランドセルがあったから、一度戻ってきたはずなんだけど」