しかし、祐次は笑い声の主たちを見極めていた。


転校初日に真っ先に話しかけてきた女子生徒たち3人組へ向かって歩き出す。


祐次が近づくにつれて3人は居心地が悪くなるようで、身じろぎをして視線をはずす。


その行動は自分たちがラクガキの犯人であると知らせているようなものだった。


「誰がやったのか知らないけど、文句があるなら直接俺に言ってくれない?」


教室中に響く澄んだ声だった。


さざなみのように聞こえてきていた生徒たちの私語がスッと消えていく。


祐次の言葉は簡単でわかりやすくて、そして誰の心にも届くものだった。


3人組は祐次と視線を合わせないようにうつむき、返事もしない。


だけど確実にその言葉は届いていた。


「なんのことだかわかんないんだけど」


「だよね、私たちなにもしてないし」


「い、行こうよ」


3人はブツブツと口走り教室から逃げ出してしまった。


これからトイレにでも入って悪口を言い合うのだろう。


それでも祐次のおかげでスッキリとした気分になっていた。


「ありがとう」


戻ってきた祐次に礼を言うと祐次はくるみに頭をさげてきた。