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それから3時がくるまでの間、くるみは自室で洋服選びをしていた。


隣の家にお邪魔するだけなのに、ああでもないこうでもないと試着を繰り返す。


結局、それを見ていた聡子がワンピースを貸してくれることになった。


淡いピンク色のワンピースは聡子の勝負服で、丈がひざ上何センチだろうと思うほど短い。


さすがにこれ一枚で着ていく自身はなくて、くるみは下に黒いレギンスを履いていくことにした。


昼食は家で普通に食べたけれど、緊張してしまってなかなか喉を通らない。


見かねた母親がくるみのためにリンゴをむいてくれた。


「祐次くんと会うのがそんなに緊張するなんて」


母親はなにか懐かしむような表情で呟き、父親へ視線を向けた。


この2人は恋愛結婚だと聞いたことがあるから昔の自分と照らし合わせているのかもしれない。


「祐次くんはいい子だと思うがなぁ」


父親はそこまで言って口をつぐむ。


みんな祐次とくるみの関係を心配しているわけではないのだと、安易に伝わってきた。


あの家に暮らす人間はみんなおかしくなっていく。


そのことが不安なのだ。


しかし、そんな非現実的なことを理由に2人の間を引き裂くことはできなくて、言いようのない雰囲気が漂っている。


「心配かけてごめんね。でもなにかあればすぐに離れるから」


くるみは自分のせいで家族の空気が悪くなっていることを察して早口にそう言った。


母親が用意してくれたリンゴをかじり、逃げるように自室へと戻ったのだった。