狂った隣人たち

もう二度とあんなことはしない。


そう思ったけれど、孝司はそれを許さなかった。


「俺はもう行けないけど、お前ひとりならまだ大丈夫だ」


どういう意味かわからなかった。


どうして孝司はもう行かないのか、どうして自分なら大丈夫なのか。


わからないことだらけだった。


でもきっと、和宏が病気だと店の人間も理解したから、さほどとがめられることはない。


何度店に行っても出入り禁止にはならない。


そう、考えていたのだ。


そして、今回も。


和宏は本屋に入ると孝司に教えてもらったとおり店の人の場所を確認した。


今はお客さんが少ない時間のようで、レジにひとりしか立っていない。


レジに立つ男性は1度和宏を捕まえた人だったので、鋭い目つきを向けられた。


和宏はその視線から逃げるように棚に隠れた。


でも、孝司が言うには店に店員がひとりしかいない時間はチャンスらしい。


なにがチャンスなのかわからなかったけれど、今しかないのだと言う。


チラリと顔を出してレジを確認してみると、男性店員は後ろを向いて本に透明カバーをかけははじめていた。


かすかな機械音も聞こえてくる。