狂った隣人たち

和宏は買い物しなれたデパートを歩く。


だけど今はもう、自分がなにを買いに来たのかわからなくなっていた。


心臓はまだどきどきしていて、後ろをひっきりなしに気にしている。


そこに孝司の姿がなくても、またすぐに振り向いて確認する。


額がヒリヒリと痛くて涙が滲んでくる。


歩いていると正面に本屋が見えてきた。


何度も来たことがある本屋。


ここにはいろいろな思い出があった。


両親が和宏のためにここで沢山本をかってくれた。


絵が沢山書かれている勉強の本が多かった。


それから、孝司と一緒にも来た。


孝司が一緒のときはいつも漫画本や漫画雑誌のコーナーだった。


孝司は和宏にカバンを開けさせてその中に本を入れた。


和宏は最初それがどういうことなのかわかっていなかった。


ただ優しい孝司のすることだから、なにも言わなかった。


それが悪いことなのだとわかったのは、何度目か同じことをしたときにお店の人に捕まったからだった。


あの時孝司は和宏を置いてひとりで逃げて行った。


なにがなんだかわからないまま取り残された和宏はひとりでとても怖い思いをした。