狂った隣人たち

しかも休日出勤で嫌な気分になる。


それでも行かないわけにはいかなくて、あわただしく自分の家を後にする。


和宏が生まれるに当たって踏ん張って建てたマイホームを一度振り向いて、会社へと急いだのだった。


孝司は優しい弟だった。


兄の和宏の生まれ持った病気を理解し、時には兄のように手を差し伸べ、時には弟のように甘えて、時には友人のように接する。


「買い物、行ってくるね」


朝食を終えた和宏が斜めかけのカバンを持って玄関へ向かう。


「あ、待って。俺も行く!」


和宏の姿を目に留めた孝司がおお慌てで着替えてきた。


2人して肩を並べて家を出る。


孝司は優しい弟だった。


歩きながらすれ違う近所の人には笑顔で挨拶し、兄が寄り道しようとしたら手を握ってとめる。


孝司は優しい弟だった。


……表面上だけは。


「今日は漫画。俺がいつも読んでるやつ。わかるよな?」


買い物予定のデパートにほど近い路地裏はひと気もなく、家からも離れていた。


孝司は和宏の頭を力づくで壁に押し付けて、耳元でささやく。


和宏は頭を押さえつけられたまま何度もうなづく。


「よし、行け」


手を離された和宏の額は壁に押し付けられていたせいで赤くなっていた。