狂った隣人たち

「くそ! 開けよ!」


祐次は襖を破ろうとして足で蹴っているが、少しも穴が開くことはなかった。


襖はまるでトランポリンのように祐次の足を跳ね返してしまう。


うずくまって懸命に吐き気をこらえていたくるみは、畳が氷のように冷たくなっていることに気がついた。


壁に手をついてどうにか立ち上がり、足元の畳へ視線を向ける。


異変に気がついた祐次も動きを止めて視線を畳へと移動させる。


張り替えられて青色をしていた畳が見る見るうちに日焼けし、薄茶色へと変化しているのを見た。


2人はきつく手を握り合い、体を寄せ合う。


それでもこの部屋に逃げ道なんてなかった。


「祐次……あれ……」


くるみは白い息を吐き、震える指で畳の一角を指差した。


そちらへ視線を移動してみると、信じられない光景があった。


畳の中から青白く、透けた手が伸びてきているのだ。


5本の指がなにかを求めるように空中をうごめき、近くの壁や畳をなでる。


その微かな音が2人の耳にも届いてきた。


腕はぐんぐん伸びてまるで2人を探しているように空中をさまよう。


「くそっ! 開けよ!!」


祐次は襖を力まかせに叩く。