2人が家に戻ってきたとき祐次の家の前には救急車が停車していた。


数件の家から野次馬たちが出てきていたけれど、数は多くない。


もうすでに、この家でなにが起こるのか予想がついているから、見にも出てこないのだ。


まるでそうすることで悪いものが移るとでも思っているかのように。


祐次の母親が何度もベランダから飛び降りるのを目撃しておいて通報しなかった近所の人も、姿は見えなかった。


救急隊員たちに連れられて家から出てくる父親と弘人の姿を見た瞬間、祐次は顔を伏せてしまった。


とても見ていられない光景で、体が震えた。


「こっちから行こう」


くるみは祐次の手を取り、救急車の脇を通り抜けて自宅へと向かった。


くるみの家族も誰も様子を見に出てきてはいないが、リビングのカーテンが少しだけ開いているのが見えた。


くるみは玄関を開けて祐次を中へ入れるとすぐに鍵をかけた。


隣の家の人間を家に入れたとバレたら、くるみの家もなにを言われるかわからない。


「ただいま」


「お邪魔します」


それぞれ声をかけ、くるみが前に立ってリビングへと入った。