狂った隣人たち

力一杯包丁で切り取られた指先から血があふれ出す。


父親は痛みを微塵にも感じさせない様子で、切断したそれを魚の腹部にねじ込んでいった。


まるで指についたお菓子のカスを舐め取るようにあふれ出す血をペロペロと舐める。


「お父さん早く、お腹減ったよ」


横から弘人が父親を急かす。


「もうできたぞ。ほら、食べてみろ」


そういわれた弘人が大きな生の魚を頭から丸かぶりした。


ガリガリと魚の骨を砕く音。


そしてゴリゴリと奥歯で粗食する音が聞こえてきて、祐次はゆっくりと後ずさりをしていく。


なんだこれ。


これが俺の家族か?


「祐次も食べなさい。うまいぞ」


父親がニコヤカに声をかけてくる。


祐次は返事もできずに左右に首をふると、「ああああああああ!」と、なにかを吐き出すような悲鳴を上げて、家から逃げ出したのだった。