なんでもない家族団らんの光景を目の前にして、呼吸が荒くなっていくのを感じる。


早くこの場から逃げないと。


この人たちから、この家から逃げ出さないと。


それでも両足は地面にくっついてしまったかのように動かない。


やがて大きいほうの子供が祐次に気がついたように顔を上げたのだ。


視線がぶつかり、戦慄が走る。


この人は、玄関先にいたあの男?


疑問が浮かんできた次の瞬間祐次は目を覚ましていた。


ハッと大きく息を飲み込んで飛び起きる。


呼吸は乱れていて、心臓は早鐘を打っている。


そして全身は汗でぬれていた。


「なんなんだ、今の夢」


呟き、よろけながらベッドから降りた。


妙な夢を見てしまったせいで頭にはモヤがかかったようにハッキリしない。


とにかく汗を流そうと部屋を出たところで、昨日の出来事を思い出した。


途端に頭がクリアになり、階段を駆け下りる。


あの後家に警察が来るようなことはなかったはずだ。


来ていれば祐次だって気がついている。


津田家の人たちは通報しなかったんだろうか?


考えながらリビングのドアを開くとそこには誰もいなかった。


電気をつけて周囲を確認してみると、ダイニングテーブルの上には食器が残されたままになっている。


昨日の夕食を思い出してかすかな吐き気を感じた。