って、どういうことよ?
女子大生のお嬢様とは何でもないんじゃなかったの!


時間は少しだけ遡る



コインパーキングに車を駐車して、カフェまで商店街を二人で歩く。
歩道が石畳になっていてそれを挟むように雑貨やレストランなどのお店が並んでいる。

「この町には来たことはなかったけど、すごく素敵な商店街ね」

「オープンカフェなんかもあって、ちょっと洒落た感じだろ」

「アラサーの私でもわくわくする」

清太郎は私の肩を抱き寄せると「年なんか関係ないだろ」と優しい声でささやく。
どうして別れようなんて思ったんだろう、言葉が足りないのは付き合い始めた頃からだった。でも、私が話せば必ず答えてくれた。

「私、清太郎のことめちゃくちゃ好きかも」

よほど驚いたのか目を見開らいて固まったままみるみるうちに顔が赤く染まっていく。
ふと前方を見るとお店の前にオープン記念のスタンド花が並んでいる白い外観に出窓には鉢植えの花が並んだお店があった。

まだ耳が赤くなっている清太郎に「あれ?」と指を指すと、店の方向を見ながら
「bon moment(ボンモマン)」

「ボンモマン?」

「お店の名前、意味は“幸せなひととき”なんだ。そして、オーナーからこの店のコンセプトを聞いたときに麻衣のためにやろうと思った」

白い扉には大きな花のリースが掛けられ、その中央には猫の形のドアベルがついている。

「私のため?」

ドアを開けると目の前には花が沢山飾られた大きな木のオブジェが天井まで伸びていて、まるで生命の樹のようで活力があり幸せな気持ちになる。
木を囲むように円形の座席があり、外から見えていた出窓のところには二人が向かい合わせで座るような席が観葉植物でさりげなく仕切られて並んでいる。

「コンセプトは」と言いかけた時

「海棠さん」
と言いながら肩まで大きく開いた襟に全体にレースをあしらったミニ丈の白いワンピースを来た女性が走り寄って来て清太郎の腕を掴んだ。

何これ?
今までの甘い雰囲気とかぶち壊しだし、これってあれよね?例の女子大生のご令嬢ってヤツだよね?
何が何だかわからず、フリーズしていると、ご令嬢が甘ったるく清太郎に話しはじめた。

「この間、海棠さんに言っていただいて自分なりに考えました。海棠さんとお仕事がしたいのでデザインの勉強をしようと思ってるんです。お料理学校とかはしばらく行けないですが、ちゃんと自立するために頑張りますね」

ご令嬢には隣にいる私は全く目に入らないらしい。
清太郎はさりげなくご令嬢の手をほどきにかかっているが、ご令嬢も負けじと腕をほどこうとしている手を両手で握りしめ、小首を傾げながら見上げる。

中島くん以上にあざとい・・・

「そうですか、がんばってください。ところで、今日のプレオープンは関係者だけのはずですが?」
と、いいながらさらに握られた手を引き抜こうとしていると、今度は握った手を胸の近くに持っていった。

「だって、海棠さんが手がけたって高橋部長に聞いたのでお願いして招待していただいたの。すごく可愛いですね、一番のお気に入りになりそう」

目の前でご令嬢と清太郎の手を巡る攻防戦が続いているのを呆気にとられて見ていると、ご令嬢がチラリとこちらを見て口の端だけで笑った。

え?これってバカにしてる系??

「やっぱり、海棠さんは独立すべきです。父ならその後ろ盾になれますよ」

なにこれ・・・私を選べば利益があると言いたいわけね・・・
さっきまで浮かれていた気持ちが少ししぼんでくる。
今後、清太郎の回りにはこの子とは違う意味でも女が寄ってくることが容易に想像できた。

誰にも聞かれない様にため息をつく。

それまで、丁寧に手を振りほどこうとしていた清太郎が、力をいれてご令嬢の手を払い、何かを言おうとした時奥から一人の人物が近づいてきた。