警官は怪訝な顔をした。はじめ、つまりはどこの誰かよく分からない人を拾って一緒に住んでいるのかと解釈したが、今は一人暮らしではないということで、その同居人が咲桜のことを守ることができるかもしれないと思った。

「今、お薬飲まれましたよね。そのお薬はどのくらいの期間飲み続けていますか」

診断書には病名や診断された日が、処方箋には薬の名前や効果、飲み方が印刷されている。

「これは……1週間か2週間くらい前からですかね。ストーカーに追われているかもしれないと思った日から妄想がひどくなったり、すごく不安を感じやすくなったりビクビクするようになったり、動悸がひどくなったりしたので。さっきも動悸が出そうだったので薬を飲みました」

警官は診断書のコピーに咲桜が話したことを書き加えた。

「あの、被害を防ぐために私にできることって何かありますか?できれば相手に近付かれないようにとか、それか安全に話し合いをして解決する場を設けてもらったりとかしてもらえたらいいんですけど……。一応今は深夜に外出しないとか、夜は同居人と一緒に行動して1人にならないようにするとか、色々と気をつけてはいるんですけど」

サラサラと紙に書き込む手を止めた警官は、パッと顔を上げた。

「ストーカー行為をしている方や大戸さんとその方の関係、これまでの被害が証拠付きで分かっているので、こちらで対応できることは多いと思います。早めに相談していただけたということもありますし。これからも深夜の外出を控えてもらったり単独行動を控えてもらったりという感じで大丈夫かなと思います。また何かあればこちらから連絡させていただきますし、不安なことがあればいつでも署までご連絡ください」

咲桜は相談を終えて、警察署を出た。

「あれ?」

警察署の向かいには、清士がいた。咲桜は急いで道を渡り、向こう側の路地に着いた。

「成田さん、迎えに来てくれたの?待ったでしょ?」

清士は首を横にふる。

「いいや、咲桜さんがどうしているか気になってしまってね。連絡もせずに来てしまったが……変質者(あいつ)のことは相談できたかい」

「うん、警察の方でも何かしてもらえるかもって」

「そうか、それは良かったな、一安心(ひとあんしん)だ。さあ、家に帰ろうか」

2人は並んで家まで歩いた。