最悪だ、と財布の中を見て、絶望を覚える。
札が一枚もない。キャッシュレスが流行った今、殆ど札を持たないのが最悪を齎した。

「すみません……」

レジ前の店員が気まずそうに黙っている。

事情を説明して、近くのコンビニにおろしに行くしかない、と口を開こうとした。

「あ、わたし払いますよ」

後ろからあの声が聞こえる。振り向くと、「ハイボール」の君がいた。

「え、いや」
「わたしの卓と合算してくださーい」

ふわふわとした声で、レジの前に来た。財布を取り出す。