「ごめん…なさい……っ」
目の前の顔が何よりも怖くて、ふかくふかく頭を下げた。
「…もう櫻井には近づかないでくれる?また同じことされたら困るから」
そんなの……嫌だ。
やっと、やっと自分の気持ちに気づけて、伝えたいことたくさんあるのに…。
それなのに近づいちゃだめなんて…。
「あんた、テーピングの巻き方すら知らないでしょ?」
知らない……。
着物の着付け方と、お茶を立てるくらいしかできない。
こんなのが彼の婚約者……?
そんなの誰が納得するの…?
今だってすごくお似合いだ、横山さんと櫻井くん。
「───婚約者なんですよ」
どうにか涙を出さないようにぎゅっと閉じてしまった目は、響いた言葉に開いてしまう。
私の目と、横山さんの目。
それは応援席に座って、ずっと黙っていたひとりの選手へと向いてしまって。
「…こん…やく、しゃ…?」
「…はい。かなのは俺の婚約者です」
「……なに……言ってるの……?」
そう、それが普通の反応なのだ。
今の時代で婚約者だなんてびっくりだし、高校生の私たちだから尚更信憑性は薄い。



