「っ、わ、私は…どんな櫻井くんだって…、すっ、す───」
「由比さん、駄目」
「っ…、」
止められたはずなのに。
「言わないで」と、断られたようなものに近いはずなのに。
それなのにどうしてか身体の芯から、奥の奥から、全身に向かって熱が込み上げてくる。
「その先は───…俺が優勝して言いたいから」
それはもう認めざるを得なくて、私は、この人のことが好きなんだと。
婚約者とか、しきたりとか、そういうものは一切考えないで。
怪我をしてしまったのに、それでも私のために優勝しようとしてくれて。
嬉しいのに心配で、そんな姿すら格好よく映ってしまって。
その先の言葉に期待している私は。
ただ、櫻井くんのことが好きなんだって。
彼に恋する、ひとりの女の子でしかないんだって。
《男子個人戦、まもなく再開いたします。決勝戦の選手は会場にお集まりください》
放送からアナウンスが響く。
反応できない私を優しく見つめてから、櫻井くんは表情を変えてゆっくり立ち上がった。
彼の決勝戦を見逃すまいとする観客席では、一般客に混じって選手たちも並ぶように注目していた。



