やっぱりあれは反則行為だったんだ…。
それならどうして審判さんは公平なジャッジをしてくれなかったんだろう…。
そんなモヤモヤした思いを抱えていると、「剣道は判定が難しいんで」と優しく答えてくれる。
「でも勝った。次も勝って、俺は優勝を由比さんにあげますね」
だめ、そんなのだめ…。
もう櫻井くんは私の中で一番だよ。
だから棄権して、そうしないと櫻井くんが無理をすることになっちゃう───。
そう言いたいのに、目の前にある青紫色に腫れあがった足首に意識は奪われてしまった。
「どうしよう、はやく手当てしないと…っ」
「由比さん、」
「っ、」
そっと私の頬に当てられた手のひら。
そのまま上を向かせられると、見下ろしてくる瞳は私に何かを伝えようとしていた。
「俺、これで優勝したら…由比さんに伝えたいことがあるんだ」
敬語が取れた。
それまで合わさっていた櫻井くんの目とはまた違うものが目の前にあって。
きっと櫻井くんはこういう大会で、こういう場面は慣れっこなんだ。
だから今回も同じって、いつもの通りにやれば問題ないって。



