とくに気にせず、友達である笹倉 優子(ささくら ゆうこ)───通称ゆっこは美術室へ向かう私の隣を歩いた。
「なにかあったって言えば…あったんだろうけど…」
「なになに!?まさかそっちの話!?」
「…そっちって……どっち…?」
この子は私の唯一の友達といっても過言ではなく、それでも不思議なことはここでもひとつ。
地味な私とつるむには珍しいタイプの女の子だということ。
ふわっと花のような香りをいつもまとわせて、透き通るロングヘアはナチュラルに巻かれて。
校則ギリギリを攻めるメイクだって。
「女子高生といえば恋バナに決まってるでしょー!まさかぜんぜん想像つかない子から聞けちゃうなんてっ!!」
「…まだ私は何も言ってないよ、ゆっこ」
それにちょっと失礼だよ、ゆっこ。
確かに私なんかクラスでも隅っこを必ず陣取るような目立たなさで。
「あ、いたの?」なんて軽く言われてしまうくらい影だって薄い。
そんな私───高校1年生の由比 かなの(ゆい かなの)は、友達にすら家柄のことを隠して生きていた。