俺の世界には、君さえいればいい。

櫻井side




「送ってくれて…ありがとう。あと……今まで色々ごめんなさい…」


「…いえ。じゃあ…また来週」


「…うん」



名残惜しい。
もう少し一緒に歩いていたかった。

それでも少しずつ敬語を取って話してくれる頑張る姿に、心が温かくなる。


もっと話していたいって、もっと由比さんの笑顔を見ていたいって。



「あっ…!ちょっと待っててくださいっ」


「え、」



そのまま勢いよく日本家屋の立派な屋敷に戻っていくと、そこまでしないうちに玄関から出てくる。


「…これ、」と、差し出されたのは湿布だった。



「…ほっぺた、冷やしてね」


「……ありがとう、ございます」



そんな優しさだけで痛みなんか無くなる。

それに俺が自分で自分に作ったものだし、由比さんを泣かせてしまった痛みのほうが痛いくらいだ。



「…あの、ちなみに、婚約は…破棄じゃないですよね…?」



不安だった。

1度でも口にされてしまったから、俺はすごく不安だったのだ。



「…ぞ、続行で……お願い…します…」



顔を赤くさせながらも丁寧に頭を下げてくる姿は、さすがは礼儀作法の身に付いたお嬢様だ。

そんな俺の心は、ストンと軽くなった。