俺の世界には、君さえいればいい。





「じゃあ…その、婚約者兼お友達で…、よ、よろしくお願いします…っ」


「…こちらこそ…よろしくお願いします、」



お互いにペコッと頭を下げる影は、お父さんに初めて紹介されたときよりも緊張して。

でも温かくて優しくて、ふふっと無意識にも響いてしまう。



「もう泣いてないですか…?」


「っ、はい…、大丈夫です、」



無表情ながらに覗いてくる櫻井くんは、簡潔に一言でいえば破壊力抜群だった。


それでも無表情じゃない。

本当に私を心配してくれてるだろうな…って、すこしだけ自惚れてしまいそうになる。

微量な変化の中にも、いつも優しさはちゃんとあるから。



「あの…、それと名前…苗字じゃなくて、下の名前で…!」


「かなの。」


「っ…!!」



こんなにもすぐ呼んでくれちゃうなんて。

それに櫻井くんのものとは思えないくらい甘い声だった。


けれど言ってしまった本人は、あとから汗がだらだら吹き出してる……ような…?



「………さん、」


「え、櫻井くん…?」


「っ、かなの…さん、」



櫻井くんのこういうところ、すっごくかわいいと思う。

頬をほんのり赤くさせて照れてる…。