そんな、とある日の放課後。

関わったことなど微塵もない剣道部の先生にプリントを渡すという任務を受け持ってしまった。



「でも今日は確か…部活ない日、だよね…?」



文化祭が近いからか、それとも諸事情というものか。

日直で残っていたわけでもない私に頼んだ先生の意図は分からないまま。


とりあえず……届けよう。

剣道部の道場は体育館のちかくにある。


中庭の見える渡り廊下を進むと、そんな中庭で櫻井くんと初めて話した記憶が甦った。



「あ、…開いてる、」



いいのかな…本当に入っても。

木目の扉の前、軽く手をかけてみれば横にずらせられる反動があった。


ガラガラガラとゆっくり開けてみる。



「し、失礼しま───失礼…しました」


「由比さん。」


「っ…、」



何事もなかったかのように戻ろうとした私を、それだけで引き留めてしまったのは。

道場の真ん中。

姿勢よく正座をして、じっと目を閉じていた袴姿の婚約者だった。



「こっちに来てください」


「あの、剣道部の先生は…」


「そんなのいません。俺が由比さんの担任にお願いしたんで」