もともと足は遅いし運動だって出来ないけれど、こういうときの逃げ足だけは速かったりもする。

ビビりでひ弱な性格が作り出した唯一の特技のようなものだ。



「っ、」



本当は話しかけてくれて嬉しかった。

てんとう虫も、櫻井くんとのことを思い出して心が温かくて。


それなのに避けてしまった…。
逃げてしまった……。


婚約破棄───そうしたほうがいいんじゃないかと思っている私がいて。

そのほうがみんな納得するし、櫻井くんにとっても一番いいことだ。



「───由比さん、」


「わっ、あっ、わたし用事が…!!」


「えっ!ちょっとかなの!?」



それからというもの。

ばったり鉢合わせた移動教室では、ルート変更。



「ゆいさん───」


「あっ…!先生に呼ばれてるんだった…!ごめんねゆっこ…!」


「えっ、ちょっとかなのってば…!」



教室前で待ち伏せされているときは、美しいUターン。



「ゆいさ…」


「えっとっ、教室に忘れ物しちゃった気がする…!またねゆっこ…!」


「かなの!ちょっとさすがに櫻井くんに失礼よ…!!」