カラカラと、ポーチの中で軽い容器がぶつかりあう音がする。
こうして女子トイレはいつだって女の子のお色直しをする場所となっていて。
私は普段はすっぴんで、付けたとしても乾燥を防ぐ匂い付きのリップクリームくらいだ。
「あー、横山先輩ってめっちゃ可愛いって騒がれてる?」
「そうそう。剣道部に入る部員は横山先輩が目当てってのも聞くし」
横山先輩…。
部活にも入ってなくて、とくに先輩とも関わりがない私は知らなかった。
そうだったんだ…。
話に聞くだけでもすっごくお似合いなんだろうなぁって想像ができる。
「横山先輩と櫻井くんならさぁ、快くおめでとうになるけど。由比さんだよ?やめてほしいよね、ほんと」
「ああいうタイプって地味で目立たないくせに鼻につくっていうかさー」
「わっかるー」
じゃあ髪を染めればいいのかな…って思ったけど、うちは代々伝わる和服の家系だから。
そんなことをしてしまえばおばあちゃんが倒れてしまうかもしれない。
着物にはやっぱり黒髪。
常に謙虚な姿勢、穏やかな大和撫子として礼儀作法は徹底。
そうやって育ってきた私は、やっぱりイマドキの女の子とはズレているらしい。



