「俺も先輩と最後に試合がしたいです」
「そう…だな、んじゃあここからは指名制にするか」
「じゃあ俺は、───横山先輩と」
困惑だ、それはもう困惑。
俺以外の部員全員が「はあ?」と、アホっぽい反応をしてくれる。
それでも俺が見据えた先には、今はもう涙を拭うふりすらしていない2年の女がいる。
男子剣道部に唯一いる、部員からするとアイドル的な立ち位置のマネージャー。
「俺はこれからも、この部を強くしたいんです。そのためにはマネージャーも少しは鍛えないと」
「ふふっ、あたし?えぇ~、手加減してくれる?竹刀を握ったことくらいしかないのに…!」
「駄目ですか?つきあっては、くれませんか」
つきあっては、くれませんか。
俺はそんな意味を込めた言葉を送った。
「ううん、いいよ?あたしも剣道部の一員だから。受けてもいいですか?先生」
「え!?いいのかよマネージャー!!怪我するぞ!!」
「櫻井はあたしに優しいから大丈夫」
「ひゅ~!!お前らイチャついてんじゃねーよっ」
由比さんが俺から離れた瞬間から、こいつはしょっちゅう絡んできた。
まるで彼女のようなポジションを勝手に作って、学校中に噂が立つのを高見の見物でもしていたんだろう。