そんなの嫌だ。
そんなの思うわけがない、思えるわけがない。
離れないでって、横山さんのほうに行かないでって思ってる。
本当はずっとずっとそう思ってる。
だけどそうすると、次に傷ついてしまうのは櫻井くんだから。
今度は本当にいま以上の怪我を負わせられるかもしれない。
2度と剣道が出来ない足にさせられちゃうかもしれない。
「俺も、嫌です、」
「…いや……?」
「はい、由比さんにもしそう思われてたとしても……離れるのなんか、婚約破棄なんか嫌だ」
あんなにもひどいことをしたのに、こうして名前を呼んでくれる。
生徒に見られていても関わってくれる。
それだけで幸せだから、それで十分だって思わなくちゃだめなのに。
どんどん出てきてる、欲が溢れていっぱいだ。
「だから…教えてください、俺にどうして欲しいですか。それを言われないと…、───俺は自分本意に動くよ、」
「きゃ…っ!」
ぐいっと力強く引かれた。
ふわっと浮いた身体は、前のめりに突っかかるように体重を預けてしまって。
そのまま櫻井くんの空いたほうの手が後頭部に回った。
「あ…っ、」
「…どうして、欲しいですか、…言わないと続けますから」



