「私は…、平気だよ、もうお父さんとお母さんにも言ってあるから、」
「婚約破棄ってことを、ですか?」
こくんっとうなずいた。
だから横山さんと仲良くしてくれて大丈夫だよ、私のことは気にしなくて大丈夫。
「出来ませんよ、それ」
「…え…?」
「だって俺も櫻井家も、そんなの聞いていなければ了承していません。
…由比家は、そういう礼儀を大切にはしないんですか、」
うぅ…、ぐぅの音も出ない…。
確かに勝手に破棄にしてしまったのはこちら側。
それに私の身勝手で決めたようなもので、お父さんもお母さんもおばあちゃんも、承諾という意図は1度も見せなかった。
「でも実は俺も…ぶっちゃけると“しきたり”とかどうでもよくて、」
「そ、そうなの…?」
「はい。あ、でも由比さんを知れたきっかけだから、感謝はしてます」
分からない、櫻井くんが私に何を伝えようとしているのか分からない。
どんな顔をしているのかも分からない。
それは櫻井くんの顔をずっと見れていないからだ。
「ガトーショコラ、」
切なそうに響いた声に、はっと顔を上げてしまった。



