「俺は…、お前が剣道してる姿を見れなくなるのが嫌だった…、
これからもお前から技だって盗みたい、だから……そんなの、出来なかった、」



そのつらさを、今まで続けてきたものを失くす苦しみを誰よりも想像できるのだって山本先輩でもあるんだ。

だから自分に置き換えて考えてみたとき、どれだけの恐怖があるか分かってしまったんだろう。


試合に負けたときも悔し涙すら流さない男が、こんなファミレスで隠すことなく泣いていた。



「山本先輩、俺は先輩のことを…ライバルだと思ってます」


「…俺、おまえに勝ったこと……1回もねーけど、」


「でもライバルです。わりと今回はヤバいかもって思ったときもありますし。
俺もプライドみたいなものは一応持ってるんで…言わなかったけど」


「っ…、ごめん…っ!ごめん、櫻井、ごめん…っ、悪かった……っ」



すると山本先輩は、俺の前にひとつの封筒を差し出した。

これを通院費に足してくれ───とのことらしい。



「…バイト、したんだ。年末年始と土日くらいしかろくに稼げなかったけど…おまえに、こうやって渡したくて、」


「…先輩、受験生でしょ」


「そんなのどーでもいい…、受験なんか一瞬だけど……櫻井の傷は一生だったかもしれないんだ、」