俺の世界には、君さえいればいい。





「ゆっこ…!ご、後藤さんから貰ったチョコなんだけどね…っ」


『ん?あたしも今さっき帰宅途中に食べたよ~』


「え…!?た、食べたの…?」


『つい止まらなくって全部たべちゃったわ!』



スマホ先の声は、私が食べたものとは別物を食べたんじゃないかってくらいのテンションで。


たしか後藤さんはクラスメイト全員に作ったと言っていて、すでに授業の合間に食べていた男子生徒もいた。

そのとき、『バレンタインチョコってなんでこんな美味いんだよ』と笑ってて。


私だけ……なの……?


そういえばお家に帰って味わって食べてって、そんな念押しをされたような気がする。



『どしたの?あ、まさかムッツリプリンスに渡せなかったとか~?』


「…ううん、渡せたよ。じゃあまた明日ね、」


『え、かなの…?』



それどころじゃなかった。
それどころではなくなってしまった。

唖然となりながらスマホを置いて、学級日誌をパラパラと捲ってみる。



「っ…、」



文化祭準備のとき、私に足をかけたのも。

すれ違った瞬間に刺々しい言葉を送ってきたのも。

上履きのガム、冷たい文字が書かれた紙切れ、捨てられたお弁当。



「…ごとう、さん…」



そこに書かれる過去の文字が、私に“消えろ”と伝えてきたものとまったく同じだったから。

すこしクセのある丸い文字。


後藤さんだったんだ───…。