「…よし、がんばれ私」
その日、櫻井くんと学校で顔を合わせることはいつもより少なくて。
だけど私にとってはここからが本番だった。
今日はどの部活もお休み。
それを先日知らせてくれたのは櫻井くんで、お返しするように一緒に帰ろうとメールで誘ったのは私だった。
そこでチョコを渡す。
そして───…櫻井くんに気持ちを伝える。
「だいじょうぶ、大丈夫……、深呼吸…しんこきゅう、」
婚約者ではあるけれど、私の気持ちを伝えたことはなかった。
でも今日ちゃんと伝えようって。
私は婚約者だから櫻井くんと仲良くしたいわけじゃなくて、好きだから婚約者なんだよって。
櫻井くんにはメールの時点で、少し遅くに待ち合わせをしたいと言っていた。
それは誰にも邪魔されず気持ちを伝えたかったから。
“わかりました”と、櫻井くんからのメッセージでトークルームは止まっていた。
「大丈夫、ちゃんと作れてる…」
手にした袋に入っているシンプルなガトーショコラ。
ゆっこに渡したものより、あえてデコレーションも最低限にして粉砂糖を振りかけただけ。
そう、“あえて”なのだ。



