俺の世界には、君さえいればいい。





「おかしいんですよ、」


「え…?」



授業以外のときは生徒が滅多に近寄らない理科室。

そこへ連れてくると、ドアをぴしゃりと閉めた櫻井くんはつぶやいた。



「おかしいんです、前の試合のとき」



前の試合のとき……。

それは冬休みに応援に行った試合での準決勝のことだろう。


あれからリハビリの成果あってか、今は通院頻度も減っているらしく。

まだ完全ではないけれど、部活には出来るだけ参加しているらしい。


ただ前回のペナルティとして当分の試合では補欠扱いだと、櫻井くんは少し前に教えてくれた。



「俺にわざと足をかけた選手がいたでしょ。あの人とは中学の頃から何度か試合をしてるんです俺」



だから、わりとどんな攻め方をしてくるか知ってる───。

櫻井くんは静かな声で続けた。



「あの人は今まで1度も反則技を使ったことなんか無かった。そんな人でもないことは俺も知っているんです。
…なのに足を蹴ってきた。おかしいんですよ、あの試合」



おかしい。

そんな言葉だけで、並々ならぬ恐怖感が全身をほとばしってくる。



「これは俺の勝手な憶測ですけど、…誰かに命令されたんじゃないかなって」


「え…、命令…?」