裏を返せば、“しきたり”に従っているだけで情のない関係ということ。
自由な恋愛をしてはいけない不自由な立場。
「わぁっ、苦しいよゆっこ…!」
「いろいろ抱えてんのね、あんたも」
「……うん」
そのことを勘づいてしまったのか、ゆっこはむぎゅっと私を力いっぱい抱きしめた。
キーンコーンカーンコーン。
「わ…!うそ…っ、完璧ちこくだ…っ」
「いーのいーの、こういうときくらい自由に生きたって許されるよかなの!」
「…美術の西村先生に一緒に怒られるんだよ…?あのひとネチネチ言ってくるよ…?」
「……走ろっ!!」
でもね、ゆっこ。
こんなこと櫻井くんにも言えないけれど、私は今の立場に感謝してたりするの。
『キイロテントウは赤色よりいい意味があるんですよ』
櫻井くんと初めて話したのは、高校に入って2ヶ月ほどが経った頃。
先生に頼まれて花壇の水やりをしていたときだった。
その花壇の端にある水道で水を飲んでいた、袴姿の櫻井くんがいて。
しゃがむ私に、そう声をかけてくれたのだ。
『そ、そうなんだ…。詳しいんですね』
『…すみません、なんか急に』
そのときの恥ずかしそうに微笑んだ顔が忘れられなくて。
以来、私はずっと彼と話してみたかった。



