その日、私はいつもより早く起きて。

いつも通りの挨拶、いつも通りの朝ごはん、いつも通りの準備。


そして、初めて行った瞑想。



「かなの…?おーい、かなのー?」


「……」


「かなのちゃーん?」


「……」


「す、すみれちゃん……とうとうかなのちゃんが俺を無視するようになった……」



煩悩、ぼんのう、煩悩、ぼんのう…。



「そんなことしてると余計に嫌われちゃうんじゃない?」


「そ、そうなのか…?えっ、余計に…?パパすでに嫌われてたの…?」


「ふふ、女の子には色々あるのよ」



煩悩、ぼんのう、煩悩……。


私はただじっと正座をして、心のなかで何度も唱えながら目を閉じつづけた。

冬休みが明けて、3学期が始まった朝。



「───よし、行ってきます!」


「かなの…!気をつけて行ってくるんだぞ!」


「うんっ」


「お弁当は持ったのー?」


「持ったよ…!お父さんとお母さんもお仕事がんばってね…!」



私が瞑想を行った理由はひとつ。

今日から再開する高校生活はきっと、今まで以上の生きづらさがあるだろうから。



『───婚約者なんですよ』


『かなのは俺の婚約者です』