「かなの、」
「かっ、かなの……です、」
「…かなの、」
ひとつひとつ練習してるみたい。
かなの、かなのって。
こんなにも誰かに自分の名前を連呼されたことだって初めて。
「かなの、さん、……俺も、子供は…3人以上は、欲しいです、」
「………へ……、」
櫻井くんは混乱しているようです。
櫻井くん、この距離で、今の流れでそれを言うのは絶対まちがってる。
「が、ががががっ、がんばり…ます、」
「頑張ってください」
「っ、はい…っ」
そして私、由比 かなのも混乱しているみたいで。
頑張ってください……?
そんな他人事のような返事をした櫻井くんは、一点を見つめてポーッとしていた。
「……え、……俺、いま…なに言いました……?───っ!?!?!?」
そして意識がようやく戻ってきたようで。
どこから意識なかったの…?
たぶん子供のところから……だよね…?
「がっ、ががっ、頑張ってくださいって、俺なに言ってんだ…!!」
「えっ、あっ、ごごごめんなさいっ!」
「あっ、いやっ!由比さんが謝ることでもないんで…!!」
あの、子供が3人“以上は”欲しいってところは…訂正しないの……?



