俺の世界には、君さえいればいい。





「俺はいつも表情が薄くて言葉数も少ないので…無愛想だって言われることが多くて。
それなのに周りには人が集まってくるのが、本当は嫌で」



私が知らない櫻井くん。

隣クラスの物静かな人気者さんが抱えていた気持ちが、はじめて話された。



「それは俺に何か期待してるんだろうなって…いつも感じるから」



櫻井くんはいつも、応えない人。

期待が向かってきても、それを無表情でスルーしてしまうような。


それは無意識なんだろうなって思っていたけれど、実際は意識的でもあったらしい。



「でもそれとは違って由比さんは、そこまで目立つほうじゃないけど……返事がない存在に笑いかけられるような、優しい心を持ってるんです」



てんとう虫に話しかけてしまうのは、ちょっとだけ理由があった。


普段は地味で目立たない、居るか居ないかよく分からない。

あ、いたの?なんて言われるクラスメイトとして生きている私は。


そうやって話す練習のようなものをしていたのが、理由のひとつで。


本当はもっと話したかったりもする。

興味ある話をクラスの女の子が話しているときは無意識にも耳を傾けたりして。


だけど混ざれるわけがないから、そこで溜めた言葉を、そういう返事がないものに聞かせるのだ。