俺はこの機会を待っていた───。

櫻井くんの横顔は、そう言っていた。



「あっ、タクシー乗ろう櫻井くん…!」


「え、俺は由比さんと2人で帰りたいです」


「だめ…!はやく接骨院に行かなくちゃ…!」



櫻井くん、大好きだよ櫻井くん。


膨らむ気持ちは、もう誰にも止められなくて、私ですら制御不可能で。

櫻井くんを見る度に…大きくなってゆく。



「そうだ、湿布と包帯とテーピングも買わなくちゃ…」


「…どうして由比さんが買うんですか?」


「えっと…いつでも手当て出来るように、私も色々お勉強しようと思って…」



これから帰って、自分の足で毎日練習するの。

横山さんに言われたことは私にグサグサ突き刺さるものばかりで、その通りだって折れるしかなくて。


本当に……そのとおりだったから。



「それにいつか櫻井くんだけじゃなくて…お、お義父さんにもしてあげられるかなって」



えへへ。

そう笑った私とは反対に、櫻井くんは泣きそうな顔をして───私を腕の中に引き寄せてしまった。



「さ、櫻井くん…!?足いたむ…?大丈夫…!?」


「…由比さん、ほんとは優勝して言いたかったけど……いま言ってもいいですか、」


「えっ…、わっ、」



ぎゅうっと閉じ込めてくる。

決して足の痛みに寄りかかったんじゃなく、彼が意識的にそうした動きで。